天地40㎝ 長さ約8mほど。(紙が薄くて破れる可能性があるので、メジャーで測ってはいない。)
料紙1枚の寸法 天地40㎝×幅26.5㎝
全31枚×26[糊代5㍉分を縮めた]=806㎝ほど。
【題箋】なし
【体裁】出品した仮巻は木原元象(後の狩野養長)が原本から書き写したもの。巻末に「吉永秀和」の署名が花押とともに記されているところを見ると、由緒正しき原本だったことが推測される。
因みに、木原元象については
『青柳本蒙古襲来絵詞模本(彩色)』を熊本藩の小山川景とともに描き、 天保三(1832)年、少弐景資が博多の息浜に陣取る場面を模写し、筑前の国学者青柳種信に贈ったものである。
と『福岡市博物館名品図録』にあって、その3年後に出品した巻物が写されたことになる。
なお、《ウィキペディア》に依ると、狩野派の技術習得の方法は「臨書」だったと記されていて、狩野派による多くの模本が残されている。出品した巻物もその類いであろう。
【用紙】薄手の紙。
図の部分に色指定がしてあるところを見ると、下絵のようなものかもしれない。
早稲田大学図書館蔵本[土佐光信 筆]と比べてみると、描かれている絵の順番は同じで、詞書きの文字遣いも同じと言って良いほど似通っている。
さらに、早稲田大学図書館蔵本【画像9参照】に見られる四角い枠に囲まれる「縦長の欠損部分」が、出品した物にも、同じ場所に、四角い(楕円)枠として【画像2参照】存在する。
以上のことから、この原本は[土佐光信 筆]の可能性がある。
他に、余り関係ないかもしれないが、早稲田大学図書館蔵本は
形態 2巻 ; 41cmとあって、天地がほぼ同じ。
因みに、国会デジタルコレクション[山正禎 写 文政元[1818]【画像10参照】と比べると、かなり順番が異なるし、絵の雰囲気もかなり異なる。。
巻末に【画像8参照】
木原元象以夲冩
吉永秀和 花押
干時天保六(1835)年六月廿三日
とある。
【刊期等】
天保六(1835)年六月廿三日
【参考】狩野養長 文化十一(1814)~明治八(1875)61歳
肥後狩野家十代。幼名は藤太。凌霄華斎と号した。
国学者・木原盾臣の実弟。
弘信の養子となって狩野家を継ぎ、狩野晴川院養信に入門し、江戸城の普請にともなう障壁画の制作にも参加した。江戸末期の国学の盛行期に、江戸狩野派に伝わる正統的なやまと絵を学び、やまと絵風の作品も残した。 出典《熊本(5)-画人伝・INDEX》
文献:肥後の近世絵画、雪舟流と狩野派、肥後書画名鑑
【参考】福富草紙〈日本大百科全書(ニッポニカ)〉に依る。
室町前期(15世紀)の絵巻。放屁の珍芸のため富を得、財をなした高向秀武という老人と、これをまねて失敗した隣家の福富老人の物語を描く。上下2巻からなり、上巻には貧乏な秀武が妙音を発する放屁術をもって人々を喜ばせ、貴紳より宝物を得て裕福になる話、下巻は金欲しさに福富がこれを試み、失敗して罰せられる話を対照させて収める。
昔話の「隣の爺」譚によったもので、内容的にも「屁ひり爺」「鳥呑み爺」と材料を同じくした、笑話風の通俗的内容をもつ。
また画中に台詞を書き入れるなど、御伽草子絵巻の先駆的な作例にあげられる。
室町時代以来、御伽草子として広く流布したとみられ、多くの伝写本や異本(下巻を編み直して読み物化した1巻本『福富長者物語』など)が伝わる。京都・妙心寺春浦院蔵の2巻はもっとも有名で、暢達な描線を駆使した作品。
また、アメリカのクリーブランド美術館本(下巻のみの1巻)も同じ時期の作とみられるが、優れた筆致で描かれ、かつて冷泉為恭の所蔵と伝える。
※巻紙を貫通した虫食い多数あり。
※全体的に、経年によるくすみ、汚れあり。
※経年による紙の劣化、変色、斑点状の染み、多数あり。
※梱包材の再利用に努めています。ご理解下さい。
(2024年 6月 22日 1時 44分 追加)福富草子 釈文
※01 等としたのは各料紙に附した番号 01~31 まである。
※繰り返し記号が使えないので「よく“よく”」のように表記した。
※出品本にない詞書きは「( )←早稲田大学図書館蔵本にあり」 として示した。
※あみたふ“あみたふ”←注(「阿弥陀佛」と唱えた)などと部分的に注したところもある。
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01
詞書き 無し
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02
このかみ物まうては
祈のしるしかならす
ありなん紙巾のおし
~二行ほど欠損~
すゝめ給れはか
ならすしるしあらせ
たまへとよく“よく”
祈申たまへ
さてもこのみてくら紙は
いかてもいたりけるそ
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03
ちかけれはいと
かしこし
朝風のいみしうおもてにしむかな
たへかたや老の身もてかくたへ
かたきとおもひしのひてまいるをは
あはれといかてさゑの御神おほ
さゝらん
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04
あなかしこ“あなかしこ”さい拝“さい拝”おかむこの秀武
けふより初て
たかみくらを
さゝけてたて
まつらんする事は
老のさいはひあれと
めくみたまへと
かしこみ“かしこみ”申
事かならす“かならす”
しるしあらしめ
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05
たまへと
申す
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06
詞書き 無し
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07
とし月のすくるまゝに
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08
貧窮にせめられてせんよし
侍らねはもしやとて
御社に朝ことに
七日まいりて祈申
しるしにや侍らんこの
暁の夢にくろかねの
鈴の小柑子はかりなるを
給はるとみ侍りつる
いかなる事にか侍らん
いてこの御夢いと
かしこきゆめなり
暁のゆめなれはとて
かるひ給なん身の
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09
うちよりおもひの外なる
こといてきてこれにより
よき人の御しからふり給て
老の幸や ひらけ給はん
あまはまたかゝる事を
こそみ侍らね老の
しるしにはかゝる事を
みるこそうれし
けれ
あみたふ“あみたふ”←注(「阿弥陀佛」と唱えた)
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10
ゆめはあはせからなり
まさしくあはせ
たらひたる事なり
かしひりてきかせ
たてまつらむ
あやつゝにしきつゝ
こかねさら“さら”
あはれ希有の事かな
なにかしとも申さし
よくあはせたりし
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11
詞書き 無し
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12
めもあやなるさゝする
やつかれ
たりやら ←囃子言葉
(ちりやら)←早稲田大学図書館蔵本にあり。
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13
これをみるに物うらん
心もうせてなし
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14
あれはなにを
みるそいさ
いてみん
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15
おれら
(めもあやなるさえするやつかな
たしかにかしこへいてこよ
あなかしこ
にかすな)←早稲田大学図書館蔵本にあり
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16
詞書き 無し
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17
この沓のをき
所をとみにも
みつけて
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18
たゝとく
まいりたまへ
されともあしたにては
いかてか沓はきてこそ
まいらめ物さはかしくはなとまととくしらて
しはふきするなとに思のほかに一聲なりたり
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19
とうまいり
たまへ
とうまいれと
仰事あり
つる物を
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20
下﨟こそ
かしき物はあれ
おほつかな
えもいはぬさへするやつかな
その紅のきぬかつけよ
あれや風に
ふきあけ
らるゝ
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21
つねにまいれと仰よ
よくひれ
あやつゝ
にしきつゝ
くるふほとにおいれに
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22
ことに
ころ
すな
かゝる事をこそ
いまたみたまはね
ねのおかしさに
いかてこは
ならひたるそふ
おれぬこしほねは
おれぬつゝ
くるいに
くるひたり
かなてつかまつれ
これ給はれ
いちなくつかまつれ
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23
やはらよりて
のそかん
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24
そのわた
すへらし
おとすな
おほくの
所へまいりて
えあつめたる
物かなかかる
日ことにせは
いくせの物か
えあつめん
おもき物かな
くひはおれ
ぬい
へか
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25
となりの童に
やとひてもたせ
たれはうしろ
めたくてつねに
みかへらるゝ
おとすなよ
まことに秀武とも申さし
けふのさえすかし御杖に
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26
中將殿のめして紅の御そ
給はりていつこより殿原に
めし入てかくたまはり
あつめたるなりこのかりきぬは
小家によひ入てくれたりつるそ
我も“我も”とゝひくれともくるし
かりつる程ににけてきぬるそ
老はかなしき物なるけりわかくは
日ひとひもありくへき物をさして
日“日”にかくたまはらは
いくはくたまはらんな
これも御前のおしへ給て
かくはあるそかと
思へはかなしくこそ
あれかゝるさたする人
世に又あらはこそきしろふ
物もあらめたれか
まろおしへ申とも御神の
うけかゐ給てかくめてたき
才なつけし事はこの
世の事(とは)ありさめり ←早稲田大学図書館蔵本
あさましくこそおほゆれ
ふからなりつるおりのなさけ
なかりつる人のけ(笥)なと
みてんするはうれ
しきはさかな
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27
きしろはんあな
うれしやいとを
しや
これはいかなる神仏の
かゝる事は侍るそ
かもいはすふしも
いましつれはいかにして
この冬はいませんと
みゝてまつりつるに
けうなあさましくこそ
おほゆれ世はかきりとも
おもふけり
これいかてかゝる斗(ばかり)なりなるそ
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28
もちいのおほく
入たれはこれも
おもし
おもしとなおもひて
おもしとなおもひて(そ)←早稲田大学図書館蔵本
さくの御神の御とくを
あらたにみたれは物
はつをともぬしの
たてまつり給へはそこの
うれしさよ
おい“おい”まうし
つるそ
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29
肩のおれぬ
はかり
おもき
物かな
あらたなりける神の御しるしをかうふり
たりけれはきよき物のはつをとも
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30
まつりてまいりたるなり上の才なを
いよいよ“いよいよよ”よしをさせ給へきよし祈
申たまへ月ことのついたちにかくの
ことくそなくたてまつるへきなり
うはに申侍るまし心のうちの
ねかひのかなひて侍るなり思ふ
やうは ねききらてはいのりする
人もこそあれ
けにいみしくかうふりたまへり
御社の御とくなりいちしるく
おはする御社の御利生かな
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31
(巻末に)
木原元象以夲冩
吉永秀和花押
干時天保六年六月廿三日
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