Migos
Culture 2
中古盤
日本国内盤
2枚組
アメリカのメインストリームを今なお席巻中のトラップ。そのパイオニアであるミーゴスが昨年初頭にリリースしたアルバム『カルチャー』は、言うなれば皇帝によるトラップ大帝国の樹立宣言のようなものだった。超ロング・ヒットを記録したシングル“バッド・アンド・ブージー”に続いて、同アルバムは当然のように全米チャート1位に。それ以降も彼らの快進撃は一向に止まる気配すらない。数々の話題曲への客演、各メンバーのソロ活動を含め、彼らの一挙手一投足がニュースとなり、後進ラッパーからポップ・シーン全体にまで、影響力は今も拡大し続けている。
そのミーゴスが前作からちょうど一年で完成させた最新アルバムは、『カルチャーII』というタイトルからも分かるように、前作の続編的な作品となっている。全24曲106分という、前作の倍近いボリュームからは、彼らが築いたトラップ大帝国の盤石ぶりが伝わってくるようでもある。ただ、本作は稼いだ巨万の富をはたいて、栄華を見せつけるような豪華絢爛なアルバムというわけではない。むしろ、今作の長大なボリュームは、ストリーミング時代に対応した、したたかな戦略と見た方がいいだろう。
アルバム全体ではなく、曲単位で聴取された回数が重要となるストリーミング・サーヴィスでは、トータルの作品性よりもヒット曲を何曲生み出せるかの方が重要となる。その意味で、本作はドレイクが「プレイリスト」と呼んだ『モア・ライフ』と同様に、アルバム全体を通して聴くことよりも、楽曲単位のアピールが重視されている。実際、900万人近いフォロワーを誇るSpotifyのラップ専門プレイリスト〈ラップキャビア〉には、本作の発表週の更新でミーゴスの楽曲が10曲以上も並んでいた。彼らの目論見は見事に成功したと言っていい。
音楽的にも、本作での彼らは現行のポップ・シーンで勢力を広げるための拡大戦略にかなり意識的だ。ムーディでメロウなトラック“ウォーク・イット・トーク・イット”にはドレイクをフィーチャー。リード・シングルの“モータースポート”には、ニッキー・ミナージュとカーディ・Bというヒップホップ界の新旧女王を招聘。ファレル・ウィリアムスがプロデュースを手掛けた“スティア・フライ”ではファレル節炸裂のシンセ・サウンドを乗りこなし、カニエ・ウェストが参加した“BBO(バッド・ビッチ・オンリー)”では彼の初期作を思わせるソウルフルなホーンのループを見事に我が物としている。
その他にも、“ナルコス”ではラテンやダンスホールに目配せし、“エモジ・ア・チェーン”では日本から世界に広がった絵文字をテーマにするなど、現行のポップ・シーンにおける流行が意識された楽曲が多数。そこには、「俺たちならこのトレンドをこう料理する」、あるいは「俺たち3人のマイク・リレーがあれば、どんなトレンドだってミーゴスのオリジナルに仕上げられる」とでも言いたげな自信が透けて見える。
本作のラストは、まさしくトラップ大帝国の「国歌」として用意された“カルチャー・ナショナル・アンセム”で締め括られる。そこで彼らはハゲタカのように文化を食い物にする奴ら=「カルチャー・ヴァルチャー」をあげつらい、「カルチャーのためにやれよ」と繰り返す。そう、どれだけ売れて巨万の富を得ようと、どれだけ有名人になろうと、ミーゴスはセルアウトという言葉とは無縁のままだ。悪ガキ時代から培われたクレバーな知恵と時代を読んだ戦略、自身が生み出したカルチャーに対する絶対的な自信を武器に、ミーゴス率いるトラップ大帝国は躍進を続けている。