リング製本:180ページ
発 行:平凡社
発売日:1974年11月1日 初版
サイズ:44 cm x 32 cm x 2.6 cm
【内容説明】
『 ハリウッド映画 ポスター50年 』
ジョン・コバル=編集 デーヴィッド・ロビンソン=序文
日本語版 監修 淀川長治
・映画の足跡を聞くこの「映画ポスター集」 淀川長治
267枚集められている。オールド・ファンはその1枚1枚が溜息ものであろう。若いファンもまたそのどれもが興味シンシンであろう。それでかりにこの映画ポスターの1枚に1分間溜息をついて見とれていると,この一冊見終るのに4時間27分がかかってしまう。
このアメリカ映画ポスター集は、なんと1911年(明治44年)から今日の懐しい映画までを集めている。1911年といえば活動写真もまさに初期のころでアメリカがようやく東部ニューヨークから西部ロサンジェルスにその撮影所を移しかけたころである。
そのころのアメリカ映画ポスターを今に見ることは、なんとも珍らしい発見と申したい。
そしてこれは1910年代から1960年代その50年間の目にしみこむアメリカ映画のキアヴァルケイド(行進)である。
ところでこのコレクターはアメリカ映画史の名作を順を追ってきちょうめんには集めてはいない。ただあるがままに集めに集めて楽しんでいる。そこが実は面白く、それゆえ思いもかけぬ作品のポスターも発見できる。
いまは残念なことに日本の映画館はその劇場前に外国製のポスターを飾らなくなった。しかしサイレント映画時代の中ごろまでは、つまり大正時代の中ごろまでは活動写真館の前には外国製の上映映画ポスターが必ず飾られたものである。私が映画の魅力にとりつかれたのもその西洋のポスターのいかにも外国製の香りからであった。
ところが映画雑誌やプログラムやスタア写真(ブロマイド)は個有できるがポスターとなるとこれはまったく手が出ない。パール・ホワイトという女優の映画ポスターを私はいくら高くとも買いたいと思ったことがあった。それは大正8年ころである。
それで今日この映画ポスター集その驚くべきコレクションを手にされると、まづ第一に「映画ポスター」のその時代色のクラシックに酔われるであろう。そのためこれはただに映画狂の愛好本だけではなくポスター・デザイナーやポスター・コレクターの愛好本ともなろう。ここであえて説明するまでもなく映画ポスターとは劇場前の総看板なのである。だから高級な芸術というしろものではない。しかしその俗っぽさが映画ポスターの面白さである。その封切の時代と共に生きてきたこのポスターにはその当時の風俗その当時の市民感覚を鮮やかに今に伝えてその点ではまことに時代勉強の教科書でもあるわけだ。
1911年といえば浅草の千代田館が開館したばかりのころで,活動写真はフランスの「ジゴマ」という連続映画が話題をまいていたころである。アメリカ映画はまったく発展のスタートを踏みだしたばかりのころである。
それで1911年のポーリン・ブッシュ映画などという女優の映画は日本の誰もが見ていない。彼女は時の活動写真のアメリカン・フィルムのスタアでのちにユニヴァーサルに移って活躍した。
そのような時代の映画ポスターを見つめていると映写フィルム廻転のチカチカチカチカというこきざみの映写音が聞えアーク灯の青白い光がその映写室からもれる様子までが目に浮かんでくるわけである。この多くのポスターをいちいち説明することは限られた紙数の百倍千倍も必要となろう。それでそのほんの一部を御紹介してみよう。
Tarzan of the Apes (1918)これは大正8年に封切られた初代ターザンのエルモ・リンカーン主演作品で、この映画のターザンの少年時代そのターザン少年をとりまく猿たちがみんな人間が演じていたぬいぐるみの猿だったのに当時10才の私はこのターザンに夢中になった。Pearl of the Army (1916)は当時の連続大活劇の女王とうたわれたパール・ホワイト主演の連続活劇「陸軍のパール」。彼女はこれ以前に「鉄の爪」「電光石化の侵入者」「呪いの家」などの連続活劇に主演していて映画の面白さはその方がはるかにすぐれていた。「陸軍のパール」は第1次大戦のアメリカ参加のそのために製作されたきわものである。日本では大正10年に上映された。
Zaza (1924)は時有名なグロオリア・スワンスン主演映画で日本封切大正13年。
The Ten Commandments (1924)はセシル・B・デミル監がサイレント時代すでに監督していた「十誠」でこれは現代劇と時代劇が交互に登場のスケールの大きな大作であった。大正14年の日本封切である。
The Thief of Bagdad(1924)はダグラス・フェアバンクス主演の「バグダッドの盗賊」。映画館は特別興行としてこれを上映した。大正14年封切。
やがて昭和にはいってThe Big Parade(1926)キング・ヴィドア監督,ジョン・ギルバート主演「大進軍」日本封切昭和2年。The Gaucho (1927) ダグラス・フェアバンクス主演「ガウチョウ」昭和3年封切。
そしてサイレント映画末期のBen Har (1927)これはラモン・ノヴァロ主演の大作「ベン・ハー」昭和3年封切。Flesh andthe Devil(1927) ガルボの「肉体と悪魔」昭和4年切。
かくてトーキー時代を迎えてのThe Jazz Singer (1928)アル・ジョルスン主演「ジャズ・シンガー」昭和5年切。ただし日本ではこれより先ち昭和4年から各映画館はすでにトーキー作品を上映していて昭和6年まで解説者(べんし)が登場していた。
昭和8年切「キング・コング」,昭和10年切「意なき勇」昭和12年切「歴史は夜作られる」と語っていけば限りなし。ここで注目されたいのはその作品の日本封切その年代である。
オールド・ファンは溜息の連続。若きファンはすべてか興味で目が輝くであろう。面白い本が世に出たものである。フィルムの匂いがする。