・書籍名 : Ariocarpus et cetera / The special, smaller genera of Mexican cacti
・著者名 : John Pilbeam & Bill Weightman
・出版社:British Cactus & Succulent Society
・発行年:2006年
・形式 : 洋書(英語)、281mm x 215mm、140ページ、ハードカバー
手元に1冊だけ余部があるので出品します。外カバーは全体にスレや小さな折れがあり、ハードカバーには4隅に角潰れがあり、使用感があります。一方で、内部は綺麗に保たれていますので、使用には問題ありません(写真参照)。現在は、なかなか入手難の書籍となっており、本書もユーロ圏のとある趣味家がお亡くなりになり、一斉に手放したサボテン書籍コレクションから出てきたようです。
<書籍説明>
本書はメキシコを中心にした中米各国に分布する種数の少ない各属の玉サボテンの解説書となります。書籍名は「Ariocarpusとその他」とありますが、Ariocarpusは掲載属の一部となり、広く18属の全種が収録されており、サボテン趣味家に人気の属が目白押しの書籍となります。
著者はイギリスのサボテン・多肉植物園芸界の偉人John Pilbeam(ジョン・ピルビーム)となります。J. Pilbeamはアマチュアながら、ありとあらゆるサボテン・多肉植物を大量に栽培しており、また現地でのレポートも大量に刊行しているアマチュア多肉園芸界の鉄人とも呼べる人物です。既に90歳を越え、かなりの御高齢ですが、近年も筆は衰えておらず、相変わらずの仕事量には脱帽です。
共著者のBill Weightman(ビル・ウェイトマン)は、同じイギリスでAriocarpusを中心にサボテン栽培を行なっているようですが、他書では著者名として名前を見掛けません。ただし、J. Pilbeamの長年の趣味家仲間のようで、同氏の様々な書籍で写真提供者として名前をちょくちょく見ます。キャリアも第二次世界大戦前からとなり、J. Pilbeamよりも栽培歴が長く、なかなかの手練れの模様です。著者紹介には、戦時中にコレクションをドイツの空爆で消失し、戦後に再スタートとあり、サボテン趣味家も人生色々だなと感じます。おそらく、長年の趣味家仲間のJ. Pilbeamが、特にAriocarpusに詳しい事から誘ったのではないかと感じています。
内容としては、米国南西部〜コロンビアまで広く分布する、Mammiralia属を除く玉サボテン類の解説となります。具体的にはAcharagma, Ariocarpus, Astrophytum, Aztekium, Cumarinia, Epithelantha, Geohintonia, Leuchtenbergia, Lophophora, Neolloydia, Obergonia, Ortegocactus, Pelecyphora, Stenocactus, Strombocactus, Toumeya, Turbinicarpusの18属の全種となる58種36亜種3変種(83分類単位)を扱い、なかなか壮観な顔ぶれとなります。なお、一部の属については、他の分類体系では、属が分かれていたり、統合されたりしており、また種・亜種・変種レベルでは、更に諸説あります。
本書の最大のウリは、掲載されている写真が素晴らしい部分です。ここはB. Weightmanの写真の腕が良く、また野外生態写真に関しては、多くの写真提供者がいた事に起因していると思います。取り扱っている属が、ゴツゴツとした稜を持つサボテンが多いことからも、陰影の出し方が絶妙だなと感じ、過去に見たサボテン関係の書籍の中でもトップクラスかと感じています。 おそらく、多くの写真サンプルから、選りすぐりの写真を掲載しているのではないかと思います。
中米の玉サボテン類は、属が多い割に各属の種数が少なめで、属概念も統合や分割を繰り返しており、一部のフラッグシップ属を除くと、属レベルでの理解が追いつかない部分もありますが、本書はこれらを包括的に理解する良書かと感じています。また、属レベルや種レベルで、分類の歴史、シノニム、分布、形態、生態を中心に解説しており、図鑑として十二分に機能しています。
また、発行が英国サボテン多肉植物協会(British Cactus & Succulent Society. 通称BCSS)となり、多くの研究者やKew王立植物園関係者のサポートを受けており、内容的にも信用に値します。特に分類学的な記述に関しては、本書で採用した分類体系や対抗諸説、新種記載文献やシノニムの記述に至るまで、しっかりしているなと感じます。
J. Pilbeam関係の優良なサボテン・多肉植物関係の書籍は一通り目を通してきましたが、本書はその中でも、扱っている種群、内容、写真共に抜けているの印象です。また発行部数が少ない一方で、かなりの人気書籍のようで、海外で探してもなかなかお目に掛かれず、あっても価格が高騰しています。それでも売れてしまいます。
国内では、殆ど見る機会の無い珍本でありながら実用性にも富み、また学術的にしっかりした側面を持つ良書だと思います。ご興味のある方やお探しの方はこの機会に手に取って頂ければと思います。