機首に『684』の機体番号があり、尾部には『ROYAL NAVY』、主翼の裏側には『XE689』のマーキングがあります。
調べた所、この機体、元々は初期量産型のホーカー・ハンターF.Mk4として1955年に製造され、イギリス空軍の戦闘機として配備されてました。
空軍が後期量産型のF.Mk6に機種転換したので、海軍が譲り受けた40機の内の1機です。
ホーカー社の工場でオーバーホールするついでに、着艦フックなどを装備した海軍向けのGA.Mk11に改修され、スコットランドのロシーマス海軍航空隊基地で防空任務に就いてました。
◆趣味のホーカー・ハンター
ホーカー・ハンターは、第2次世界大戦時の名機ハリケーンを設計したホーカー社のシドニー・カム技師が、戦後に開発したジェット戦闘機です。
第2次世界大戦末期からジェット機の時代が来たので、ホーカー社(シドニー・カム)もジェット戦闘機を開発しました。
この戦闘機はホーカー・シーホークとして、イギリス海軍に採用され、空母の主力戦闘機として活躍する他、西ドイツやオランダ、インドなどにも輸出されます。
シーホークはミーティア同様の直線翼だった為、マッハ0.78(時速964km)しか出ませんでした。
そこでシドニー・カムはシーホークの翼を後退翼にしたP.1052を作りますが、空軍には採用されませんでした。
が! ここで朝鮮戦争が起こります。アメリカ空軍のP-80シューティングスターやイギリス空軍のグロスター・ミーティアが、後退翼を持つMig15に蹴散らされます。
アメリカはMig15と同じく同じ後退翼を持つF-86セイバーを投入しますが、イギリスには投入すべき後継機が無かったとゆー・・・。
ところで、採用されなかったP.1052ですが、ホーカー社では『後退翼機の時代が来る!』と確信してたらしく、シドニー・カム技師が勝手に改良を進めてました。
主翼の付け根に三角形のインテークを持ち、2段階の後退角の優美な主翼を持つ改良型は、新たにP.1067の番号が与えられます。
空軍から『ハンター』の名を貰い正式採用され、いきなり198機の大量発注を貰います。この時点でハンターの試作機は、まだ製造中で初飛行すらしてません。いかにイギリスが慌ててたか分かります。
完成したハンターはマッハ0.94(時速1150km)と、スピードではアメリカのF-86凌駕してました(※この時点で世界最速の戦闘機)。
固定武装は機首の下側に30mmアデン機関砲4門という超重武装ですが、これは迎撃機としてソ連の核爆撃機を一撃で落とす為のものです。
胴体下の機関砲はユニット化してるので、帰って来てから再補給・再出撃までの時間が短い。という運用上の利点もありました。機関砲ユニットをカパッと丸ごと取り外して新しいのと交換なので圧倒的に早い!
また、翼の付け根にインテークがある事から、機首のノーズコーン内部にレーダーを搭載してます。この時代のジェット戦闘機でレーダーを搭載してるのはハンターぐらいのものです。
更に主翼の下には爆撃機並の3.4トンの追加武装を装備する事が出来ました(何だろう、この万能戦闘機っぷりは)。
安定性や操縦性能も高く、加速性能の良い、とても良い戦闘機でした。
機首の機関砲はユニット化してた為、帰って来てから再補給(機関砲ユニット丸ごと交換)・再出撃までの時間が短い。という運用上の利点もありました。
しかし、悲しいかな朝鮮戦争後の世界は超音速機の時代に入り、アメリカやソ連は、マッハ1を超える超音速戦闘機を次々に開発し、配備して行くため、ホーカー・ハンターはあっという間に時代遅れになりました。
イギリス空軍の主力戦闘機もマッハ2級の次世代機BAeライトニングになりましたが、ホーカーハンターは終わりませんでした。
ハンターは垂直尾翼の前辺りから胴体の後ろ半分が外れるので、エンジンの整備、交換が簡単です。しかも機体は頑丈で、安定性・操縦性が抜群。そして爆撃機並の兵装搭載量を誇ります。
なので迎撃戦闘機の任務を外れたハンターは、ミサイルをたくさん積んで戦闘爆撃機としての任務に就きました。
ちょうどその頃、イギリスから独立しようとする植民地との間に独立戦争が始まり、植民地側は超音速戦闘機とか持ってなかったので、空対空戦闘と対地攻撃の両方が出来るハンターの方が便利だったのです。
今の言葉で言うと、マルチロールファイターですね。
安定性と操縦性の高さ、メンテナンス費用の安さから練習機としても長い間使われ、イギリス空軍では1970年まで現役でした。
優秀な戦闘機だった為、世界21か国に輸出されました。
特にスイスでは、空対空ミサイルのサイドワインダーと空対地ミサイルのマーヴェリックを運用能力が追加され、1990年代にF/A-18ホーネットと交代するまで主力戦闘機として使われました。主力戦闘機の座はホーネットに譲りましたが、その運動性の高さから、赤白に塗ってアクロバットチームのパトルイユスイス機として1994年まで使用されました。
イギリス空軍を退役したハンターはホーカー社で戦闘爆撃機としての改修を受け、中東やアジア、中南米などに輸出され、対地攻撃に大活躍しました。
インド空軍のホーカーハンターは、パキスタン空軍のF-86FやF-104を撃墜してますし、第3次中東戦争で、イラク空軍のホーカーハンターはイスラエル空軍のミラージュⅢを撃墜してます(何気に高性能!)
さすがに1950年頃の設計なので、世界各国の空軍から次々退役して行き、2014年のレバノン空軍からの退役を持って、全てのホーカーハンターが軍から退役しました。
ただし、退役後、民間に払い下げられたホーカーハンターは、未だに現役で、民間の軍事会社でアグレッサー(仮想敵役)として活躍してます。
ハンターの後に開発された戦闘機たちは、もう飛んでないのに、未だに飛び続けてるのが割と凄いと思います。