バイエルン放送交響楽団と合唱団による『天地創造』といえば、バーンスタインやショルティ、クーベリック、ヨッフムといった名指揮者たちによる演奏がこれまでに高い評価を得ており、その演奏力には定評があります。
【優秀録音】
今回のハイティンク盤は、バーンスタインやショルティらと同じく間接音豊かなミュンヘンのヘルクレスザールで収録されているため、音響面での条件もたいへん良好。バイエルン放送としても力の入った録音だったのか、ライヴ録音ながらセッション録音なみのクオリティが確保されており、高域から低域まで伸びのよい音質に加え、フォルテピアノの通奏低音含め、オーケストラの各楽器がきちんと解像するマイク・セッティングの巧みさは、こうした大がかりな作品にはたいへん有り難いところです。
3人のソリストの声の美しい質感、精度の高い合唱の厚みと迫力ある響きも申し分なく、躍動感に富みながら壮大さも兼ね備えたハイティンクのみごとな指揮の魅力もよく伝わってきます。
【高水準な演奏】
ベートーヴェン以降の作品を得意とし、大規模作品を指揮することにかけては無類の才能を発揮してきたハイティンクが、年齢を重ねた上で敢えて挑んだハイドン晩年の大作『天地創造』は、高度なアンサンブルに加えて古典派的なリズムの心地よさも申し分の無い、演奏者たちの真摯な姿勢の結実した素晴らしいものとなりました。
ソリストは兼務型の3人編成で、スウェーデンのソプラノ、カミラ・ティリングに、イギリスのテノール、マーク・パドモア、ドイツのバス・バリトン、ハンノ・ミュラー=ブラッハマンという明晰系の歌手が起用されています。
また、合唱指揮は、澄んだ響きと動的な仕上げでは定評のあるダイクストラ(ディークストラ)が受け持っており、合唱の仕上がりの美しさと瞬発力も申し分ありません。
【天地創造】
ハイドンの『天地創造』は、『四季』と並び愛され続けている傑作。ミルトンの『失楽園』や聖書から採り出した言葉を元にイギリスの詩人リドリーが書いた台本に基づくオラトリオです。通常は、この台本をヴァン・スヴィーテン男爵が翻訳したドイツ語ヴァージョンで上演されますが、当盤では、もともとの英語台本を用いて演奏しています。
『天地創造』は、フランツ・ヨーゼフ・ハイドン[1732-1809]、が総力を注いでつくりあげた大傑作。晩年、2度にわたって英国に長期滞在したハイドンは、その地で『メサイア』を筆頭にヘンデルの大作に強い感銘を受け、もともとヘンデルのオラトリオのために書かれたとされる英語台本をウィーンに持ち帰り、友人のゴットフリート・ファン・スヴィーテン男爵に翻訳台本の作成を依頼するのです(ちなみにスヴィーテン男爵は、モーツァルトにドイツ語版『メサイア』の編曲を依頼した人物であり、さらに、ハイドンの『四季』の台本を書いたことでも有名)。
台本の題材は、旧約聖書の「創世記」と「詩篇」、ミルトンの「失楽園」によるもので、キリスト教思想に基づく宇宙の創造の様子がわかりやすく綴られたものでした。
これにハイドンが熟達の筆致で音楽を付けているのですが、そこでの数々の猛獣や動物、鳥たちのオーケストラによる巧みな描写や、対位法を駆使した合唱の面白さは比類のないもので、映像的ともいえるほどの効果を発揮しています。ハイドンが念頭に置いたライヴァルは、創世を描いた画家たちによる名作絵画の数々と、当時のロンドンを席巻していた『メサイア』などのヘンデル作品ではなかったかと思わせる、無類に手の込んだ傑作がこの『天地創造』なのです。
かのアーノンクールはこの作品について次のように語っています。
「『天地創造』は、あらゆる時代の子供たちを興奮させる面白さを持ったオラトリオとなっている。この作品では、言葉と音楽によって描かれた情景が次々と変化してゆく様を、聴き手はわくわくしながら見守るのである。巨匠たちが描いてきた天地創造をテーマとする数多くの絵画と同様に、この音画ともいうべきオラトリオは、神による創造の行為を率直に、純粋に表現した作品であり、あらゆる世代の人間に訴えかける力強さを持った傑作である」
『天地創造』は3つの部分から成っており、創世の時系列的な進行をそれぞれに割り振っています。以下にその流れを記しておきます。(HMV)
第1部~カオスの描写から神による創造の4日間
第1日:混乱が去り、秩序が形成
第2日:自然は天空とその下の水に分離される
第3日:陸地と海が分けられる
第4日:昼と夜、季節、日や年を分け、地を照らす光が出現
第2部~天地創造の第5日と第6日
第5日:水と大空に生き物の出現
第6日:陸地に生き物の出現
第3部~アダムとイヴの登場
ハイティンクの健在ぶりが嬉しい。弦の音色にやや違和感があるもののアンサンブルは整っているし、表現もドラマティックで終始飽くことがない。独唱陣の力量も伯仲。意を解した各自の表現は柔軟性に富み説得力がある。支柱であるコーラスも得難く、同作品の理想的な演奏として推せる。(弘)(CDジャーナル データベースより)
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