・書籍名(英名) : ENGLERA 16 - Cactaceae of South America: The Ritter collection
・著者名 : Eggli, U., Muoz Schick, M. & Leuenberger, B. E.
・出版社:Botanischer Garten und Botanisches Museum, Berlin-Dahlem Stable
・発行年:1995年
・形式 : 洋書(英語)、205×148mm、ソフトカバー、646p
手元に余分があるので出品します。 表紙に少々焼けがあり、多少の擦れがありますが、それ以外は綺麗だと思います(写真参照)。
<書籍説明>
本書はFriedrich Ritter(フリードリヒ・リッター、1898〜1989)が記録したFRナンバーの全記録を収録した書籍となります。
F. Ritterはドイツのアマチュア出身のサボテンの研究者で、日本語ではあまり紹介されていないことから評価されていませんが、南米サボテン研究における最重要人物となり、サボテン界の鉄人と称して良い人物だと感じます。とにかく緻密で手数が多く、分類学者としても優秀で、新種記載や分類体系の変更記録を膨大に残しています(生涯で16新属812新種変種品種、253種の属変更を記録)。また、1928年にメキシコで発見したAztekium ritteri (花籠)をはじめ、様々なサボテンの学名に献名されています。
ドイツの古典サボテン研究といえば、国内では、かの伊藤芳夫氏も心酔していたCurt Backeberg(クルト・バッケベルグ、1894〜1966)が最も有名ですが、同氏がナーセリーでの栽培株を中心に研究をしたのとは対照的に、F. Ritterは同時代〜1970年代までに自身の足で稼ぐフィールドワークで活躍した人物となります。分類学的な研究については、命名規約を雑に扱い、裸名や無効名だらけのC. Backebergに比べると、論文のレベルは圧倒的にF. Ritterに軍配が上がり、いまだに使われている学名も多数あります。
F. Ritterは1952〜1976年の約25年にも渡り、単身南米に渡って各国に移り住みながら、各地のサボテンを採集しつつ、分類学的な記録や採集を続けました。その地点数は数千ヶ所にのぼり、FRナンバーとして実姉のHildegard Winter(ヒルデガルド・ウィンター。日本ではウィンター商会として紹介)を通じ、通販で種子販売がなされ、いまだに世界各地で大量にFR系統が栽培され続けている事は驚くべきことだと感じています。
また、1950年代後半から新種記載や分類体系の提示も様々な科学雑誌で行いました。キャリア終盤の1979〜1981年には自費出版で、その総決算となる4冊組の"Kakteen in Sudamerika" を出版しており、現在でも南米サボテン分類学研究における最重要資料の一つとなっています。
なお、FRナンバーはサボテン研究において、おそらく初めて大規模に採用したナンバーとなりますが、実態としてはフィールドナンバーではありません。フィールドナンバーとは、同一地点、同日を1ナンバーとするのが基本となりますが、FRナンバーとは、複数の地点と日付の記録を持っており、F. Ritter自身が同種とした地点を一つのナンバーにまとめている一種の分類学的な整理ナンバー(タクソンナンバー)となります。時に1ナンバーに二桁のロケーションを持つ事もあります。
しかも、F. Ritterは種子のカタログ販売を資金源としており、また同時に分類学的な研究をしていた事もあり、徹底した秘密主義を取っていました。F. Ritterの死後に、彼の知的財産を後世に残すべくリッター・プロジェクトが立ち上がり、チリやドイツに寄贈された膨大な手書きメモや標本の整理が開始されました。その結果を取りまとめたのが本書となります。
本書には、写真は一枚もなく、ひたすらF. Ritter解釈の学名と対応するFRナンバー(約1600ナンバー)、その下にロケーションナンバーがLoc.1〜と並んでいき、具体的な地点名(+標高)や日時、新種記載時のタイプ産地やタイプ標本の収蔵施設(標本ナンバー)、時にF. Ritterのミスに対するコメント等まで、事細かに文字情報が収録されています。
第一編者はスイスのサボテン・多肉研究者となるUrs Eggli(ウルス・エグリ)で、かなり多くの書籍を出版しており、今では米国サボテン多肉植物協会(CSSS)のフェローで、国際多肉植物機構 (IOS)の常連となっています。また、標本やメモ等が寄贈されているドイツのやチリの博物館関係者が協力しています。
とにかく、凄まじい情報量で、やはりそこはF. Ritterの手数に圧倒されます。また、手書きのメモから、よくぞここまで纏めてくれたと感じる力作で、学術的にも極めて価値が高い書籍といえます。FRナンバーの南米サボテンは非常に多いので、改めて本書で調べると地点名が判明するのと、また興味のある種に関してF. Ritterの採集した地点名を調べるのに役に立ちます。個人的にも良く使う書籍で重宝しています。