Eストリートバンドを率いての本格的なスタジオ録音盤としては、『BORN IN THE U.S.A.』以来のブルース・スプリングスティーンの新作だ。直接的にせよ、間接的にせよ、“9.11”がいろんな形で反映している。事件直後のチャリティ・テレソンで披露した曲も入っている。ただ、ここで彼は、その事件を憎み、犠牲者に同情し、というありきたりな結論におさめない。ましてや、米国の正義をふりまわしたりもしない。むしろ、異文化や異宗教が起こす意志疎通の軋轢や困難さに目を向け、さらにその問題を国家や人種の大袈裟なものから我々の日常生活での愛情や友情のレベルにまで掘り下げていく。そこに派生する痛みや悲しみを綴る。希望や励みを歌い託す。そうすることで、自分が米国人であることにきちんと向き合っている。そこに彼の誠実さを感じる。そう考えると、パキスタンのアシフ・アリ・カーンを迎えたり、かつてない音楽的バラエティも当然のことのように思えてくるのである。