図録本 特集 別冊太陽 印籠と根付 骨董をたのしむ 写真集 作品集 写真解説 カラー写真情報満載
監修 関戸健吾
写真 宮地工
平凡社
1995年
184ページ
約29x22x1.2cm
※絶版
江戸時代の細密工芸として、印籠と根付が骨董ファンを魅了している。
木工、金工、漆工、牙角細工など、さまざまな技法を駆使した極細美の逸品を海外流出品も含め網羅した決定版。
国内・海外の著名コレクターや有名美術館が所蔵する名品を厳選し、大きなフルカラー写真で数百点紹介。
作品名、寸法、在銘のものは銘、コレクション名、英語表記あり。
特に海外の有名なコレクター達のエッセイはとても興味深い内容のもので、印籠・根付愛好家必読の大変貴重な資料本です。
【目次】より
「印籠は語る」下出祐太郎(漆芸家・詩人)
細密工芸の極み―印籠
名品を見尽くす 構成 関戸健吾
■古典名作コレクション
徳川美術館 尾張徳川家の印籠 小池富雄(徳川美術館普及課長)
国立歴史民俗博物館 牧野コレクションの印籠 東京国立博物館
根津美術館 印籠美術館
江戸の世相の縮図―根付
名品を味わう 構成 関戸健吾
根付の受ける制約
根付の題材について
躍動する生命―形彫根付の意匠
動物 怪異・空想 魚 人物 仮面 龍宮城 器物
■古典名作コレクション
東京国立博物館 郷コレクション
郷コレクションの根付 小松大秀(東京国立博物館漆工芸室長)
海を渡った印籠・根付
構成 関戸健吾・渡辺正憲
海外に流出した根付 渡辺正憲(日本根付研究会理事)
■古典名作コレクション
バワー・コレクション バウワー・コレクション
ヴィクトリア&アルバート美術館
大英博物館
メトロポリタン美術館
ロサンゼルス・カウンティ美術館
ジェイ・E・ホプキンス コレクション
ジョセフ・カースティン コレクション
ジャイラス・K・ハモンド コレクション
ロベール・フレッシェル セレクション
■エッセイ
助六の印籠 市川團十郎
螺鈿と青貝 野村守(螺鈿師)
刀の切れと素材 矢野磨砂樹(和洋木彫工芸)
時代劇の持ち道具・印籠 西田忠男(東映京都美術センター)
飽くなき根付の魅カ ジェイ・E・ホプキンス(根付研究会会長)
根付蒐集のスリルと喜び ジョセフ・カースティン
名古屋スタイルの作家たち ジャイラス・K・ハモンド(根付研究会副会長)
コレクターたちを繋ぐ鎖 ロベール・フレッシェル(提物屋)
わが印籠・根付への旅 灰野昭郎(京都国立博物館普及室長)
根付・印籠蒐集入門 村木正弘(日本根付研究会会員)
現代根付 意義と需要、素材 斎藤保房(現代根付師)
根付を作る 宮澤良舟(象牙彫刻師)
印籠・根付作家一覧
[表紙]竹林七賢人蒔絵印籠/根付・親子亀 関戸コレクション
[写真]宮地工
●寸法は、印籠の場合、縦、横で表わした。
●根付の寸法は原則として高さを目安に掲げたが、作品によっては幅や長さで表記したものもある。
●単位はすべてセンチメートル。
徳川幕藩体制が確立されて百年余
泰平無事の日々のなかで、
外国との接触を絶ってゆっくりと熟成された
わが国独特の世相と美意識が
十八世紀に至って華麗に花開いた
一握りの権力者が専らにした美術工芸も
次第に裾野を拡げ、新だな需要に沸きかえる
小さな装身具にも大枚を費やし、
無限の手間と高度な技のすべてを尽くし、
発注者と創り手が、互いの矜持をかけて生み出した
類い稀なる江戸の細密工芸…
大名も町人も、江戸の人びとがハレの場で身に帯びる、
第一の装身具が印籠・根付であった。
【作品解説より一部紹介】
十二支蒔絵金銀嵌装印籠
銘 蒔絵梶川作 縦7.9 横6.5
幕府御用蒔絵師梶川家の「古今第一の名人」と謳われた二代久次郎が蒔絵を、足利以来の装剣金工の宗家・後藤家十一代通乗が金銀象嵌を手掛け、比類無き技量を闘わせて完成させた名品。黒漆地金高蒔絵の上に、金と銀で片面六匹ずつ、十二支の動物が高彫象嵌されている。関戸コレクション。
Twelve zodiac animals. Maki-e lacquer,
gold- and silver-inlay. Signed: Maki-e by
Kajikawa.
金・銀・鼈甲 象嵌の極み
雲龍嵌装印籠
銘 芝山作 縦8.9 横5.5
金蒔絵の上に鼈甲で雲を、淡茶と白の貝を用いて片面に二匹の昇龍を、片面に一匹の降龍を象嵌している。大名家に納められたもので、芝山としては最初の、最高の大作。芝山細工は、象牙や漆地に珊瑚、鼈甲、彫貝、染象牙などを嵌装して華麗な装飾を行なったもので、江戸中期に下総芝山の大野木仙蔵によって考案された。
関戸コレクション。
Dragon and clouds. Inlay.
Signed: by Shibayama.
ほか
根付の受ける制約
根付は単なる飾り物ではない。掌に掴み帯の内を通して留めとする実用の小物である。従って引掛りや鋭い突起がなく、ほどよく小さいこと。四方天地どこからも見るものであり、紐通しの穴も要る。これらを踏まえて名工が創り出す根付は。六面それぞれ見処をもって無理がなく、丸くなめらかに納まる見事な構成力。手足や何体ものからみ具合の処理の巧みさ、面白さ。御覧の如く何十倍もの拡大にも耐え得る、完成度の高い芸術である。
鶏合せ
銘 懷玉斎 高3.7
宮中清涼殿南庭で行なわれた年中行事・鶏合せの、今しも鶏を闘わせんとする鶏使いの姿。鶏の尾の処理や全体の姿のバランス、鶏使いの表情に漂う奥深い魅力など、名工懐王斎の腕が遺憾なく発揮されている。56~65頁まで関戸コレクション。
Cock fighting. Signed: Kaigyokusai.
「印籠は語る」漆芸家・詩人 下出祐太郎
印籠は思い思いに、楽しく語りかけてくる。ながめるほどに、関心を寄せるほどに。ときに厳しく。一つとして同じものなどなく、おとぎ話や故事来歴にちなんだもの、自然の風物や吉祥文様、守り本尊や願いを込めたもの、恋人の名前をあしらったり、それぞれがすべて個性的で魅力的に、こと細かに話しかけてくる。
まず目につくのは、蒔絵が織りなす豪華でいて繊細な装飾的な絵画の世界である。金梨地の霞が遠く近くたなびき、切金を敷ぎ詁めた岩の上に、豪奢な牡丹の花が咲き乱れている。あるいは。象牙の地に朱金の文机が置かれ、それにしなだれかかる髪を結った若い女性の思いつめた表情豊かな網代模様に研ぎ出された青貝の上に、凛と突き出すように仲びた枝の可憐な梅の花。蒔絵の精緻な技術が遺憾なく発揮され、印籠の持ち主の趣味や人柄さえもうかがわせてくれる。
それから、提物としての四段にも五段にも小形容器を重ねた丸形や角形、小判形などの形態。形ど蒔絵や螺鈿などを施す加飾の、その構成に機智がひらめいている。煙草入れ形や鎧兜を象ったものなど、テーマによって独自の工大を凝らして創造しているからである。よく見ると段重ねになった継ぎ目が、ほとんど気にならない。切合口といって、漆の下地を仕上げてから仮に重ね合わせ、その上から漆を塗り、乾いたのちに割るようにしてはずし、合口を刃物で切りそろえる高度な手法で作られていて、蒔絵も施してから同じ要領で切離しているためである。この技術が継ぎ目を解消し、人物や動物や草花に生気を与えている。(以下略)
海を渡った印籠・根付
江戸の粋、軽妙洒脱の代表ともいえる
印籠・根付は、幕末から明治にかけて
揺れ動く時代の波に押し流されるかのように
続々と海を渡っていった。
精緻極まりない多彩な日本工芸の世界は
瞬く間に人々の心をとらえ
多くのコレクター・研究者を輩出した。
充実したコレクションは、
今も世界各地の美術館で展観され
人々の熱いまなざしを受けている、
構成 関戸健吾・渡辺正憲
海外に流出した根付 より一部紹介
日本根付研究会理事 渡辺正憲
[はじめに]
明治の文明開化は進んだ西欧文明や技術を吸収し、日本を近代化するのには大きな役割を果たしたが、一方において日本独自の伝統文化が否定されることとなり、多くの貴重な美術工芸品が海外に流出し、日本人の心から忘れ去られていった。印籠や煙草入を携行する時に滑り止めとして使川された根付は、江戸時代には士農工商すべての階層に愛玩され、現代でいえばネクタイやカフスボタンのような装飾品であったから、一人で何個も所有する人も多く、当時は日本全国に数百万という根付が存在していたと思われる。その膨大な数の根付は、長い年月使川されている内に疵が出来たり破損したりして新しいものと取り替えられたり、火事で消失したり、あるいは幕末以降外国人の目にとまり、海外に持ち帰られ、輸出されて、日本にはごく一部を残しほとんど無くなってしまったのである。
[根付輸出のはじまり]
昭和十八年に出版された上田令吉著「根付
の研究」によれば、(以下略)
【古典名作コレクション より一部紹介】
バワー・コレクション バウアー・コレクション
Collections Baur,Geneve
充実振りは夙に知られるところ。ことに千七百点余の根付は、正直、懐玉斎、法実、藻己など名工たちの見応えのある作品を網羅して、質量とも世界有数のコレクションとなっている。現在ジュネーヴの管理。
天球儀蒔絵螺鈿印籠
銘 常嘉斎 縦7.5 横5.8
蒔絵や螺鈿技法の種々を細やかに使い分けた、
精妙極まりない名工常嘉斎の逸品である
ほか
ヴィクトリア&アルバート美術館
1851年のロンドン世界博覧会を実現させたヴィクトリア女王と夫君アルバート公を記念して創設された美術館。
世界各地のおびただしい数の工芸品や彫刻、絵画、版画、建築等が収蔵され、世界最大の工芸美術館となっている。
日本の工芸品には、千数百点の漆工品、千点を越える根付も含まれ、根付百数十点が常時展観される。
十二ヵ月蒔絵印籠
柴田是真作
比較的簡単な作行きながら、季節感や形態の変
化の妙味、是真の正確な技法が見てとれる。
ほか
大英博物館
一七五九年開館という、世界最大級の総合博物館。一九九〇年四月、日本美術を紹介する日本ギャラリーが二階に開設された。根付コレクションは十九世紀半ばから戦後にかけての多くの愛好家から贈られたもので、二千点を越す。ハル・グランディー選りすぐりの動物主体の六百点は、ガラスの覗きケースの中にいつもその姿を見ることができる。
関羽
無銘 高9.5
鍾馗と鬼
無銘 高13.35
十八世紀の作品には少し粗い感じのする彫りのものが多いが、次頁「中国の商人」も含めこれら三点は、仕事が丁寧で保存状態もよい。
ほか
メトロポリタン美術館
一八七〇年創設。セントラルパークに建つ、当初の二十倍に拡大したという広大な建物に、三百万点を越す世界の美術品が収蔵されている。日本の漆工は、印籠六百点を含む千二百余点。根付は一九一〇年、ラッセル・セイジ夫人の寄贈になる二千五百点のコレクションが基本となっている。一九八七年には、日本美術常設館が開設されている。
ロサンゼルス・カウンティ美術館
一九一三年創設の、西海岸最大の美術館。八八年には「日本館」が建てられ、絵画を中心に日本美術の数々が展観されている。近年、長年日本に住み、根付研究蒐集では第一人者のレイモンド・ブッシェル氏のコレクションのうち六百点が寄贈もしくは貸与された。
初期の人物根付から現代根付まで、幅広い傑作百五十点が常に展示され、精彩を放つ。
ほか